撮影入門
この文書は、カメラ初心者向けに、主にボケと明るさの観点から、撮影に必要な最低限の知識を得ることを目的とした文書です。カメラ買ったけどオートモードしか使ったことないとか、頻繁に写真がブレて失敗する、などに見覚えがある人には特にオススメです。
ボケの制御
写真にはピント面があります。レンズから一定距離の平面においてはピントが合うのでカメラスペックの解像度を出すことができますが、それ以外の場所にあるものは前に来ても後ろに来てもボケて、期待の解像度を出すことはできません。
このようにピントは原則として一定距離の平面でしか合わないのですが、実際には許容誤差があってそれなりの範囲で事実上ピントが合ったのと同じ扱いにすることができます。この範囲の広さを被写界深度といいます。
被写界深度が変わる変数は多く、次のようなものがあります。左は被写界深度が狭くなりボケやすくなる、右は広がってボケにくくなるものです。
- レンズの絞りを開ける(明るいレンズを使う) <-> レンズの絞りを絞る
- 近い被写体 <-> 遠い被写体
- 焦点距離の長い望遠レンズ <-> 焦点距離の短い広角レンズ
- 大きいセンサーのカメラを使う <-> 小さいセンサーのカメラを使う
なので、マイクロフォーサーズなどの小さいセンサーで便利ズームのような暗いレンズだと背景をボカすのも一苦労したりする一方、フルサイズのような大きなセンサーで単焦点レンズのような明るいレンズを開放で使うと、被写界深度が薄すぎて何を撮りたかったのかよくわからん写真を量産するハメになったりします。花みたいに寄ることが多い小さな被写体は尚更ですね、基本はかなり絞ることになるとおもいます。
そして結局のところ、一番動かしやすい変数は絞りになることが多いので、ボケ量は絞りで制御することが一般的です。
露出のファクター
写真撮影で最も重要な要素の1つに適切な光量をカメラに与える、というものがあります。カメラにおいて許容される光の量は比較的狭く、複数のパラメータを操作してその幅に収める必要があります。これを露出といいます。露出が過剰(オーバー)だと写真が真っ白になってしまいますし、過少(アンダー)だと真っ黒になってしまいます。
殆どの場合、オートモードなどの自動で露出を制御するモードを使えば、露出を適切に補正してくれるわけですが、オートモードが何をやっているのかが分かると写真への理解が深まりますし、写真の幅も広がります。
露出は基本的に3つの変数のかけ算で決まります。
レンズの絞り x シャッタースピード x センサーのISO感度
順番に見ていきましょう。
レンズの絞り
先程見てみたように絞りは被写界深度の制御で非常によく使われることになるのですが、もちろん光量にも大きく影響します。レンズの絞りはF値という値によって示されます。レンズのスペックなどでもおなじみですね。レンズスペックは開放F値で、絞りを全開放したときの最大の明るさです。
F値は小さいほど明るく、大きくなるほど暗くなっていきます。そして重要なことなんですが、数値の二乗で明るさが変化します。F1を基準にして、F2になると数値が倍になって明るさは4分の1になります。丁度半分の明るさにしたいときは値を√2倍します。つまりF1.4ということですね。これを1段と呼んでいて、よくつかわれるF値は1段毎に以下のように変化していきます。
F1 - F1.4 - F2 - F2.8 - F4 - F5.6 - F8 - F11 - F16 - F22 …
レンズの絞りは明るさとボケの他にも、少し重要な変化が3つあります。1つは技術的な理由によって、レンズは明るいほど性能が落ちる、絞ると性能が改善するというものです。安い単焦点ほどこの影響は顕著に出ます。2つ目は光条で、夜景撮影などで街灯の光が広がるような綺麗な効果を光条と呼ぶのですが、結構絞ってやらないと出てきません。これはレンズの個性が大きいですが…。最後は回折ボケというもので、光の回折の効果によって絞り過ぎると画質が劣化するというものです。これはセンサーが小さくて画素数が多い、つまりドットが小さければ小さいほど影響が大きく、マイクロフォーサーズだとF8から、フルサイズの高画素機だとF11ぐらいから出始めるようです(露骨に分かるのはもっと絞ってから)。
シャッタースピード
そのままです。シャッターを開けている時間が長ければ長いほど光の量は増えます。シャッタースピードの変更で考慮する必要があるのは手ブレと被写体ブレとです。
人間の手は完全に静止させられるような代物ではないため、カメラを支えるときも常に揺れています。殆どの場合それで問題にならないのは、その動きが影響が出るような時間シャッターを開けない制御が行われたり、手ブレ補正の機能があったりするからです。
シャッタースピードは1/100秒ぐらいであればほぼ手ぶれを気にする必要はなくなります。強力な手ブレ補正のある現代カメラなら尚更です。
それより長く撮影したい場合、手っ取り早い解決方法の1つは三脚に置くことで、シャッターをいくらでも開けられるようになります。
一方被写体ブレはそもそも被写体が動いているときに発生します。飛行機、鉄道、鳥などはその想定速度に合わせてシャッタースピードを上げる必要があります。どんな被写体も1/1000なら概ね止まってみえるでしょう。
逆に滝などは流れている雰囲気を出すために意図的にシャッタースピードを伸ばしたりします。列車の写真でも意図的に列車と同じ速度でカメラを振ることで、動いてる列車を固定して風景だけ流す、という技術があったりします。
シャッタースピードの時間を倍にすれば当然明るさは倍になります。同様に明るさを1段増やしたいときは時間を倍にすればいいですね。
センサーのISO感度
フィルムの時代はフィルムによって感度が決まっていました。36枚巻きのフィルムなら36枚同じISO感度になります。デジタルカメラではISO感度をいくらでも上げて写真を明るくできます。便利な時代です。
いくらでも、というのは半分嘘で、ISO感度を上げる唯一かつ大きいデメリットはノイズが増える、ということです。現代のノイズ補正の技術発展はめざましいものがありますが、5桁のISO感度にすると、ベースのISO感度によく設定されている100に比べて100倍以上の明るさになりますが、実際撮影してみると、かなり画質が落ちると思った方がよいとおもいます。とはいえ使っているカメラのセンサー性能に依存します。カメラ業界では比較的改善のめざましい部分です。
絞りとシャッタースピードが変更による副作用が強いため、最終的にISO感度による明るさの調整は、暗い夜の撮影などでは頻発します。
ISO感度も定数倍なので、ISO100を200にすれば明るさは倍になって1段増えます。
撮影モードの話
以上の3つを自動で設定してくれるのが各社オートモードとか呼ばれているモードです。とはいえ開放で撮りたいとか、意図的にシャッタースピードを伸ばしたいときには使えません。
実際に撮影をしてみると、被写界深度の制御の優先度が比較的高く、絞りの制御する頻度は比較的高いです。次に被写体に合わせてシャッタースピードを弄ることがあります。ISO感度はその2つを加味した上で調整のために弄るので、基本的には自動で構わない、ということになります。
従って、絞りだけ制御して残りは自動で調整してくれる絞り優先モードAと、被写体ブレが気になるときだけシャッタースピード優先モードSを中心にまわせばよく、夜の撮影など難しいときだけ3つの値を自分で調整するマニュアルモードMを使うのが良いんじゃないかな、という結論になります。
また、例えば雪山など白っぽい被写体は全体的にオートだと暗くなりがちだったりするので、そういう場合は露出補正をしてあげればよいです。これらの自動露出補正を調整してくれます。
有意義に活用していい写真を沢山残していきましょう。
ユースケース:夜景の場合
夜景を撮る場合、まず夜という条件なので元々かなり暗いです。そして光条を出すために多めに絞ることが多く、更に暗くなります。また、自動車が走行するシーンはランプを伸ばして走ってるような効果を出すのもテクニックとしてよく使われます。ISO感度もあまり上げたくありません。従って露光時間はとても伸びることが多く、20秒とか30秒とかシャッターを開けっぱなしにすることもよくあります。人間がこれだけの長時間動かさないようにするのは不可能なので、三脚にカメラを置いて撮影することになります。夜景を撮影したい時は良い三脚を持っていきましょうね。
フィルターの話
明るさを変更させる変数には実は4つ目が隠れていて、それはレンズフィルターです。光を増やすことはできませんが、レンズフィルターで光の量を減らすのはよく行われていて、太陽の観察や滝の長秒撮影などはNDフィルターという減光するフィルターを使います。紅葉などでよく使うPLフィルターも実は光の量を減らす効果があり、2段分ぐらい減少します。夕焼け撮影などに上半分だけ減光させる角型のNDフィルターなどもあります。沼!